今般、ネイルサロンの倒産が過去最高を記録しているとの報道がありました。
ネイルサロンは、広い場所や設備等がさほど不要であることから、新規参入のしやすい事業といえ、もともと競争が過当といえる状況が続いておりました。
また、一定時間対面型で施術をしなければならない業種であるため、今般の新型コロナウイルス感染症の影響で売上が下落したネイルサロンも多かったと思われます。
また、リモートワークや外出自粛などの影響で、そもそも外出を控える人が増え、外出に際した身だしなみに関する事業は苦戦を強いられているのではないかと思います。
定期的に必ず通うヘビーユーザーを除けば、同窓会や食事会といった人に会う集まりの前の身だしなみとして、ネイルサロンを訪れる人が多いため、こういった会合の減少はネイルサロンには痛手ではないかと推測します。
ネイルサロン破産の特殊性
さて、ネイルサロンの破産案件について最も問題となりうるのは前払い制のクーポンです。ネイルサロンが廃業し、破産する場合、店舗側は施術ができないわけですから、本来はクーポンを払い戻す必要があります。もっとも、クーポンを払い戻してもらう権利は破産債権となり、実際は返金してもらえるものではなく、破産管財人による配当が受けられるだけになってしまいます。
実務上は、前払いのクーポンを発行している場合、クーポンの保有者(顧客)は皆債権者になるので、破産申立てにあたっての債権者の数が大幅に増加する可能性があります。
そして、債権者の数が多数の場合は、管財人の業務量も増加しがちです。また、法律的なやりとりに慣れていない消費者が多数債権者になるのですから、管財人側も債権者からの問い合わせにかなり時間を取られることが予想されます。
そのため、破産申立てにあたっては裁判所から、管財人に引き継ぐ現金を多めに準備するよう求められる場合もあります。
さらに一番難しい場面としては、紙製のクーポンなどを発行している場合で、購入者の住所氏名をサロン側が把握しておらず、誰が債権者か分からない場合です。この場合、破産する予定をクーポンの保有者に連絡し、破産法上の権利行使を促すことすら難しくなります。
クーポンの購入者が債権者であることは間違いないのですが、住所と氏名を把握していないと、債権者として取り扱うことが非常に難しくなります。インターネットを用いた公示などで債権者の把握に努めるなどの方法が考えられますが、必ずしも決まった方法はなく、場合によっては破産申立て前に裁判所と事前協議を行いながら進めていく必要があります。