洋菓子店の倒産

洋菓子店の倒産について

 最近,洋菓子店の倒産が相次いでいるそうです。
 様々な理由が考えられますが,帝国データバンク(令和元年9月9日)の分析では,コンビニスイーツの台頭による、客足の変化,ケーキへの支出減少が目立つこと,相次ぐコストアップが理由と言われています。
 確かに,地元で愛された洋菓子メーカーとはいえ,流行り廃りの波は激しく,次々と新しいメーカーが出て,古くからあるものは飽きられるというのが消費者の動向ですので,老舗の洋菓子メーカーは次々にヒット商品を生む,商品開発力がないと,厳しいのではないかと思われます。
 私も洋菓子工場の倒産事件を取り扱ったことがありますが,洋菓子工場は生鮮食材を扱いますので,次のような問題が生じることがあります。
 

①仕入れた生鮮食材の廃棄

 仕入れた生鮮材料は,工場の廃業および破産準備中に廃棄処分となる可能性が高いといえます。消費期限が短いことが多いため,転売が難しかったり,仕入れて開封したものなどは販売が難しいからです。
この場合,「どうせ廃棄するなら返してほしい。資源の無駄だ」と販売元業者さんに指摘されることがありますが,破産準備の場合,お断りすることが多いです。というのは,一部商品の返還に応じてしまったら,その噂が広がり,際限なく,商品返還の要求に応じざるをえなくなるからです。
 したがって,洋菓子工場をはじめ,食品工場の破産においては,まず,廃棄費用の確保をしなければなりません。

②電力の確保

 また,①生鮮材料の廃棄とも関連するのですが,冷蔵品が多数あるため,倒産するとはいっても当面の電力の確保が必要となります。倒産手続の準備に入ったとなると電力会社は電気供給をストップしますし,また,倒産を予定し弁護士が介入した状態で,引き続き電力を使い続け,電気代を破産債権にしてしまうのはなるべく避けたいと思います。
 洋菓子工場の電力は,工場用の電気なので高圧が利用されている場合がほとんどでしょうから,電気がないと腐敗するものについては極力早く廃棄するか,売却するかして,電力の問題を解消することが必要です。
 

③鍵の確保

 食材の消費期限の問題から,工場においては,仕入業者に工場の鍵を預け,朝や夜中の工場の稼働時間外に,工場内の所定の場所まで材料を搬入しておいてもらうことがあります。
 そして,そのために仕入れ業者に工場の鍵を預けていることがあります。
 破産の手続にはいると,仕入れ業者は未収債権をかかえた債権者になります。特に,仕入れ業者が中小の卸売り業者であったりすると,倒産手続への不理解や回収不能額の経営にあたえる影響から感情的になったり,モラルが低下する場面が散見されます。
 そのため,納品した材料の返還を求めたり,未収債権のかたに機材を持ち出したりしようとして,預けてある鍵を使って,工場に忍び込むような事態もしばしば発生します。
 したがって,預けてある工場の鍵がある場合,破産準備に入る際には,工場の鍵を変えてしまうことも検討しなければなりません。

④説明について

 さらに,食材の消費期限が短い,日々,材料が費消されるという点から,洋菓子工場をはじめとする食品工場では,破産のいわゆる「Xデー」の直前まで,材料を仕入れ,納品を受けていることがほとんどです。
そのため,破産の準備に入ると「計画倒産だ」などと言われ,直前の仕入れを取り込み詐欺のように言われることがしばしばあります。
 しかし,経営者が破産を決意したまさにその日に工場稼働をストップさせ,材料の受け入れを拒むことは実際上は困難です。いわゆる「Ⅹデー」に向けた準備がないと,債権者が多数会社に訪問したり,従業員への説明が不十分となったりするからです。
 また,仕入れ担当者には破産の予定は事前に伝えられていないこともよくあります。
したがって,直前の仕入れはやむをえないことがほとんどであり,申立てにあたっては,その旨を説明し,理解をしていただく必要があります。

⑤解雇予告手当の高額化

 また,食品工場においては,パートタイム従業員やアルバイト従業員を多数雇用していることがあります。破産準備に入るにあたって,従業員はすべて解雇となるのですが,会社は従業員に解雇予告手当を支払う義務があります。
 この解雇予告手当は,一般的には,平均賃金の30日分と言われており,おおむね一か月分の人件費が解雇予告手当として支払われるのですが,パートタイム従業員やアルバイト従業員には出勤日数の少ない方がいます。
 この場合の解雇予告手当の計算方法は,前述のものと異なり,平均賃金は「直近3カ月の賃金の総額」÷「直近3か月間の解雇した従業員の出勤日数」×0.6で最低額を計算しますので,おおむね1カ月分の人件費と見込んでいた解雇予告手当が高額化するという問題があります。

まとめ

 以上のように,洋菓子工場をはじめ,食品工場の閉鎖にあたっては,通常の破産申立準備とは異なる点が多々あります。
 また,混乱を回避し,安定した手続を進めるため,申立ての費用が高額化することがあります。
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