ホテル,旅館業の破産の特殊性

ホテル,旅行業の破産について

 今般の新型コロナウイルス問題では,さまざまな業種の方が苦境に立たされております。その中でも,旅館業への打撃は深刻で,老舗旅館の廃業などが報道されているところです。
 旅館業を営む方が廃業,破産される場合は,次のような点に注意する必要があります。

1 予約の問題

 まず,もっとも注意すべきは廃業予定日より先の日付に入った予約の問題です。旅行に来たお客様が旅館を訪れると,すでに廃業しており,宿泊場所がなかったなどという事態はどうしても避けたいところです。
法律上,宿泊予約客は,金融機関と同じで一債権者にすぎませんし,個々人の債権額は全体から見れば少額にとどまりますが,やはり消費者被害のような事態を巻き起こすと,社会問題にもなりかねません。
 予約のお客様がクレジットカード決済の場合は,クレジットカード会社がお客様に返金をしてくれことが多いといえますので,廃業を代理人弁護士から伝えさえすれば,納得される方も多いように思います。このことは代金未決済のお客様にも当てはまります。
 お客様の中には「旅行の予定が変更になったことへの補填」などを求められる方もおられるかもしれません。平時であれば,評判や信用を維持するため,迷惑料のような形で対応される場合もあるかもしれませんが,さすがに破産予定で廃業するのですから,このような補填要請には応じる必要はありませんし,応じるべきではありません。
 問題は,予約し,代金支払い済みのお客様についてです。
 破産法上は,お客様の請求権(宿泊その他サービスを受ける権利)は,履行できない状態になっており,お客様が旅館側に対して保有するのは支払い済み代金の返還請求権だけになります。
 また,この代金返還請求権は破産債権であり,これは裁判所の破産手続の中で,破産管財人による配当を受けうるにすぎないのが原則です。そのため,旅館経営者が廃業にあたって任意にお客様に宿泊代金の返還をすることはできず,仮に返還をした場合は,管財人による否認権行使の対象となってしまいます。
 ただ,予約のお客様の人数が少なく,返還金額も多額に及ばない場合で,かつ,お客様による入金から廃業までほとんど日が経っていない場合は,ごくごく例外的に返金をしても実務上は問題化しない場合がありうると私は考えております。ただ,この判断はあくまで例外的ですし,既述のように「返金はできない」というのが大原則ですので,かならず弁護士に相談の上,対応を決められるよう願います。
 いずれにせよ,破産廃業をする場合,その判断が早ければ,予約のキャンセルについても時間的余裕があり,キャンセルとなったお客様においても,他の旅館を探すなどが可能となりますので,おかけする迷惑も低減できるのではなかと思います。

2 破産費用の問題

 また,旅館業の破産の場合,困るのが破産費用です。以前飲食業においても述べさせていただきましたが,旅館業も収入は宿泊客による現金または15日毎に支払われるクレジットカードによる支払いですので,キャッシュが入り,ぎりぎりまで経営が「できてしまう」という問題があります。
 また飲食店同様,旅館業においても,販売可能な什器備品はさほど多くありません。
 そのため,いざ破産準備となった場合に,破産費用がねん出できないという問題があります。
 特に,破産の判断が遅れ,予約済み宿泊客への対応を破産管財人に任せざるをえない事案となると,破産管財人への引継金についても,最安値(大阪地裁の場合205,000円)というわけにはいきません。
 したがって,破産費用については余裕をもって確保していただく必要が高いといえます。
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